TL漫画におけるタイトルの法則

TL漫画という文化は電子書籍の発展とともに育まれてきたと思う。

 

大手の電子書籍サイトの多くがここ数年で15周年を迎えるところを見ると、電子書籍という文化は15年前あたりから出てきたことが伺える。かくいう私もめちゃコミック、まんが王国に10年ほど前から登録しているが、私が登録した当時は電子書籍はマイナージャンルであり、TL漫画というジャンルはそこまで確立されていなかった。ように思う。どちらかというと、ハーレクインの方がメジャーなイメージがあった。

 しかし電子書籍が一般的となった今TL漫画は超巨大ジャンルだ。TL漫画初のアニメ、シチュエーションCDが多くは出ている。何があった。

 私が思うに、電子書籍は性を語ることがタブー視されがちな日本社会において、誰もが気軽にエロに親しむことのできるツールなのだと思う。そして性の話題がタブー視されるのは圧倒的に女性の方が多いと思っている。私のような奇特な女性は昔からAVを見ることもエロ漫画を読むことも抵抗がなく、問われれば全然好きなAVシチュエーションも答えていたが、ある時気付く。普通は、そうはいかない。

そりゃ女性同士の飲み会では彼氏のセックスがどうだのちんこが小さいだの前戯が長すぎるだのそういう話が赤裸々に語られはするが、それはあくまで、”自分の身に起きた話”をするにしかすぎず、男性のAV談義のようなものはあまりないし、なぜか女性は性的な漫画や映像を搾取しないというような風潮が男女問わずあるような気がする。しかし、TL漫画のヒットを見る限り、女性だってエロを読みたいときは間違いなくある。

 

だからこそ、電子書籍という他人の目を気にすることなく購入し楽しめるツールの中で、女性は思う存分エロを堪能することが出来るようになり、TL漫画というジャンルは拡大して言ったのだろうと思う。

 さて、そうやってTL漫画の歴史?をたどっていると、色んな事を感じる。

そのうちの一つが、TL漫画におけるタイトルが占めるウエイトの大きさである。

 

現在のTL漫画は内容に察しが付くようなタイトルがつくのが一般的になっている。(男性向けも大いにそうであるけれど) あと大抵『~』括られたサブタイトルがある。しかし、私が振り返る限り、ある時期までTL漫画のタイトルというのはそんなに露骨なものでなかった。言ってしまえば普通の少女漫画と同様の、物語の中のキャッチフレーズ的なものがタイトルになっていたり、一見分からないけど本編を読むとあ~そういうことかあ、というような抽象的なものが多かった。

しかしそれこそ電子書籍が世に広まり、人々がエロを求めて夜な夜な徘徊するようになったころから、如実にタイトルから内容が憶測できることが増えていった。これは大変興味深いなと思われる。電子書籍というのは紙媒体と違い、表紙や帯に惹かれてなんとなく手に取って読んでみる…というようなことはない。「目の前にダイレクトに現れなければ永遠に読まれない」のである。つまり、検索して引っかかること。それが第一なのだ。タイトルの美しさや響き、「これどういう意味なんだろう?」と内容を想像させることは必要ない。ダイレクトに内容が分かり、検索すれば容易に引っかかるようにすることで、確実に顧客を取り込んでいく。これはラノベでは使われていた手法であるが、漫画界に浸透したのは電子書籍が広まってからだと私は思っている。

 

さて、そんな3秒で内容が分かるTL漫画のタイトルの法則について分析していきたいと思う。

 

1.ヒーローのカテゴライズ"がタイトルで分かる

これは大変に重要なポイントである。『年下彼氏』『上司』『社長』『消防士』『後輩』『幼馴染』。ヒロインにとって相手の立ち位置がタイトルに含まれる。更にそこに”属性”が入る。『優しい』『ドS』『ツンデレなどなど。これは初期から現在まで変わらずある風潮だ。あらすじを見なくても主人公たちの関係性やヒーローの性格が分かる。「この人はどんな人だか分からない…」「読んでいくうちに見えていく彼の内面…」なんていうのは必要ない。分かりやすさ。一にも二にもそれなのである。

しかしこれは、私達が相手との関係性・属性を重視してシナリオを選ぶという側面があるということを逆手に取られている。そうなのだ。オタクというのはカテゴライズが大好きだ。遥か昔より『幼馴染萌え』『年下好き』『ドMがたまらない』という風に萌えは語られてきた。電子書籍サイトで、私達は自分の好きな関係や属性を検索欄に打ち込むだけでよいのだ。そうすれば読みたいエロが読める。何て便利な時代…!

 

2.シチュエーションが推察できる

しかし私達はある時はたときがつく。『クール 幼馴染』と検索をかけただけで、何百件ヒットすることに…。私達はその中で自分が読みたいシチュエーションを探していく作業をすることになる。骨の折れる作業だ。エロを読む気が損なわれる。そのためかある時期よりTL漫画はタイトルからシチュエーションが推察できるものに進化していく。『エステ』『深夜のカラオケ』『お仕えする』『誰もいないオフィス』『同居』『満員電車』など、ヒロイン達がどういう状況に置かれているかがタイトルに入っているものが増えていく。『鬼上司と婚約者のふり?!』『最悪幼馴染と体育館倉庫に閉じ込められて…』などといった、もう読む前から何があるか起きるのか想像がたやすいものがランキングを牛耳っていく。これもまたニーズに確実に応えるための確実な手法であると思われる。

 

 3.流行りを抑える

これは私たちのニーズというよりはビジネスとして重要なポイントだ。これは正直言うと読み手は仕掛ける側に翻弄されているような気もするのだが、一つ流行ったジャンルの漫画があると、それに追随して似たような漫画が乱発される傾向がある。私が振り返る限りでも、やたら三角関係物が続く時期があったかと思えば、盗撮とか無理やりとかの漫画が増え、そのあとは執事、ヤクザ、それが収まったかと思えばオネエ系…と、電子書籍サイトのランキング上位には同じようなものが溢れかえる。最近は上司/同僚/後輩というようなオフィスラブが流行りなんだろうなと感じている。

 

4.性的側面をタイトルに打ち出す

ここ最近顕著に増えているなあと思うのが"性的側面をタイトルに打ち出す"ということである。『大きい』『絶倫』『超絶テク』『性欲が凄い』 これらは今めちゃコミックの最新TL漫画ランキング20位くらいまでをざっと見て実際にタイトルに入っていたものである。つまり、最近は絶倫の超絶テクが求められている、ということだ。いや現実で実際やられたら困るが。これは草食系が世に定着し、恋愛をしない人が増えている中、ガツガツ責められたい女性が多いということの表れなのかもしれない(適当)

 

5.ヒロイン目線、もしくは相手目線の一言が入る

最後になるが、これも大きな特徴だと思う。『私、感じちゃう』『俺を満足させてみろ』など、どちらかの視点での一言が大抵付け加えられている。紙媒体でいうところの帯にあたるのかもしれない。 この一言よりTL漫画界は『ヒロイン全力投球系タイトル』『状況を詩的に表現する系タイトル』などのジャンル分けが行われているといっても過言ではない(嘘です) 

 

 

さて、以上の5つがTL漫画におけるタイトルの法則である。ここから導き出された今最も売れそうなTL漫画のタイトルは

『絶倫上司の超絶テク!深夜のオフィスで濃厚プレゼン~俺に判子を押させてみろ~』

だと思うので各出版社の皆様よろしくお願いいたします。

 

改めて思うけれど、TL漫画はキャッチーだ。しかし、分かりやすさと引き換えに、情緒が損なわれている気がしてならない。TL漫画に掛かれば、私のバイブル少女漫画、ガラスの仮面だって『敏腕社長とイケメン俳優に迫られて~揺れ動く私のガラスの仮面~』ということになる。絶対読みたくない。でも、分かりやすい。情緒よりも大事なものが時としてはある  そうエロだ。AVのタイトルだって死ぬほどわかりやすい。つまり、エロにおいて"わかりやすさ"が何よりも重要だ。現代社会は全体的にわかりやすいものを好む傾向にあり、複雑で難解なもの/深く考察しないといけないものというのは受け入れられづらくなっていると古のオタクとは思っているのだが、エロ文化においては今も昔も変わらず、分かりやすけりゃいいんだなと思う。しかしこの文化はエロゲーには適応されておらず、エロゲーという分野の独自性を感じる。不思議だなあ。そもそもエロゲーというジャンル自体が時代錯誤になりつつあり、エロは分かりやすく手っ取り早く摂取できるかどうか、が全てになってきている気がする。エロゲの良さってエロだけじゃなくて、全年齢では描けないドロドロさや奥深さがあると思っているのでこれからも頑張ってほしい…と思いつつ今日も私は電子書籍サイトの検索欄で『ツンデレ 年下 プール』『クール 獣人』と打ち込むのであった。

 

さて、酒を飲みながらランキングを眺め、ありえないタイトルを見てゲラゲラ笑うのも趣味なのだが、誰にも共有できなかったのでここでここ最近のお気に入りを紹介させていただきます。(ちなみにタイトルがツボなだけで実際読んでない作品もあります)

 

・俺を勃たせてみろよ~私の上司は加減を知らない~

ジャンル分けの中では『男性の上から目線系タイトル』に分類される。特に勃たせたくないんで帰らせてもらってよいですか?この漫画はめちゃコミックのあらすじが大層頭が悪そうで笑う。漫画自体は面白くて個好きです。

 

・上司がゴムを咥えたら~二人の距離は0.01mm~

咥えたら…咥えたらなんなの?!と、分かるようで分からないタイトル。0.01mmと、誰がうまいこと言えといったのか。

 

・部長の夜テクが凄すぎて腰が浮きます疼きます

まさかの畳みかけるスタイル。ちなみにこの作者さんは言葉攻めがうまい。

 

・合コン相手は肉食警官?!~26歳処女は捕らわれたい~

読んでいて別に捕らわれたいわけではないのでは?と思ってしまう。あと肉食というより、合コン相手は優柔不断?! タイトルと内容の不一致が秀逸。

 

・3回イくまで寝かせねえ~元ヤン警察官は一途で絶倫?!~

4回目は寝てもいいのだろうか。

 

・このヤクザ、インテリぶったケダモノ。~股を開いて俺を誘え~

タイトルを見る限り、どのへんがインテリ?

 

ちなみにここ1、2年でのベストワンタイトルは『俺の上腕二頭筋、エッチな目で見てたでしょ? (Clair TL comics)』です。もう長らく不動の一位。これを超えるインパクトのあるタイトルの漫画にまた出会いたい。